南相馬市原町区で農家民宿、地元の食材を使ったカフェレストランなど多岐に渡って運営されている「一般社団法人いちばん星南相馬プロジェクト」の代表理事星巖 さんにお話を伺いました。
のどかで懐かしさを感じさせる南相馬の里山の中で、いちばん星南相馬プロジェクトは今日も活動しています。
築200年の古民家に宿泊できる「農家民宿」、旬の地元野菜を使った料理が楽しめる「里山キッチン」、宿泊客のみならず地元民にも好評の公衆浴場「巖の湯」愛くるしい表情の2頭のアルパカ・うさぎ・ヤギ達と触れ合える「いちばん星牧場」、コンサートや展覧会を開催できるように土蔵を改装したイベントスペース「縁蔵」
「里山キッチンでは野菜ソムリエのスタッフによる、地元の旬の野菜をふんだんに使った御膳を提供しています。大体10品目ほどお料理が並びますね。
南相馬は気候が良いのでどの作物も美味しく育ちます。トマトやナスにきゅうり。特にブロッコリーはオススメです。敷地内で採れる筍や、わらび、タラの芽、ふきのとう等も料理に使っています。
この料理を目当てに泊まりにくるお客様もいらっしゃいます。
また、プロジェクト事業の一環として、宿泊客に野菜収穫体験等を行ったり、畑を若い世代達に開放(MYSH畑)してバジルやパクチー栽培にも着手してもらっています。」
全国からの宿泊客を受け入れると共に、地元住民と地域のコミュニティの場を積極的に創り出している代表理事の星さん。どうしてここまで活動の幅を広げられたのでしょうか。そこには星さんの出会ったご縁を大切にする精神が核となっていました。
活動の始まりは東日本大震災がきっかけ、南相馬市の職員として勤務されていた星さんは震災当時、避難所業務の担当をされていました。
全国から多くのボランティアが集まり、共に支援活動をしていく中で星さんはボランティアの宿事情に心を痛めていました。ボランティアが泊まる宿泊施設の確保が難しく、道の駅の駐車場には、テント泊や車中泊をするボランティア達の車で溢れかえっていたんだそう。
そこで自宅をボランティア達への宿泊場として開放することを決めます。
古民家を改装したお宿の玄関をくぐるとすぐに目に飛び込んでくるのは2体の立派な甲冑。南相馬市の伝統行事「相馬野馬追」で着用するものです。
大きく重厚感のある梁はこの家の確かな歴史を感じさせます。母屋3室、離れ3室の計6室用意しており、団体客にも対応。
「私自身当初は農家民宿として運営するつもりではなかったのですが、ボランティアさんの方から「宿泊施設として始めたらどうですか?私たち利用させてもらいますよ。」と声をかけてもらって市の職員を退職した後に、流れのまま2012年2月に農家民宿として事業を始め、2012年4月に一般社団法人いちばん星南相馬プロジェクトをスタートさせました。」
全国から集まったボランティア達とのご縁が広がり、民宿から始まったプロジェクトはさらに躍進していきます。
「被災地へ全国から企業が研修に訪れた際に、いちばん星に宿泊してくれた企業との縁をきっかけに被災地の経済再生に向けて新規事業立ち上げを促す事業支援を受けました。里山キッチンはその支援で作ったんです。」
「牧場にいるアルパカは、新潟県長岡市山古志アルパカ村から寄贈されたものです。
2004年の中越地震で被災された長岡市から、同じように被災した者同士のご縁ということで譲り受けました。」
「大浴場巌の湯は、作業で疲れたボランティアの方達がゆっくり湯船につかれるようにと、自身の退職金で建設しました。震災以降は台風や豪雨による影響で断水してしまった地元の方達にも使ってもらっています。多い時で1日200人、駐車場はいっぱいになり近所の農家さんに駐車整備を手伝ってもらったこともありましたね。」
復興を通して出会った縁という流れに身をまかせるままにプロジェクトをどんどん拡大させていった星さんが言うには「このプロジェクトはみんなの考えが7割、自分の考えは3割。それでこんなに大きくなった。」とのこと。出会ったご縁とタイミングを大事にしてきたからこその説得力のある言葉です。
「プロジェクト名の「いちばん星」は、よく苗字の「星」からとったと思われがちですが実は違うんです。プロジェクトを発足するにあたって名称の案出しをしながら作業をしていたある日の夕暮れに、きらりと光る綺麗な金星を見つけました、つまり「いちばん星」。これがプロジェクト名の由来になりました。」
コロナや原料価格高騰など日々目まぐるしく状況が変わっていく昨今、いちばん星南相馬プロジェクトは地元から全国へとまた新しい縁を響かせていくことでしょう。これからも南相馬市の「いちばん星」として輝き続けることを願って。