南相馬市の生産者

舌も心もホッとなごむ「黄色いハート」
原町区
半谷眞知子さん

南相馬市原町区でかぼちゃ、しゅんぎくなどを生産している半谷眞知子さん。手をかけて作っているブランドかぼちゃ「黄色いハート」について伺いました。

早起きからはじまる一日

午前10時。原町区にある半谷眞知子さん宅の敷地内の建物に向かうと、てきぱきと働いている半谷さんのお姿が。そして、床一面に敷き詰められたかぼちゃの数々が目に飛び込んできました。訪問した7月中旬はかぼちゃの収穫時期。雨天が続く中での久しぶりの晴れ間、差し込む日差しにかぼちゃがつやつやと光っています。

「今日は暑くなりそうですね」と半谷さんに声をかけると、朝3時から起きて活動しているというから驚きます。

「毎朝暑くなる前には起きて、家事なども済ませてしまいますね。今朝もかぼちゃの天ぷらを揚げましたよ。」という半谷さん。丸々と立派なかぼちゃから作る天ぷらは、想像しただけで美味しそう。まずはそのかぼちゃ、どのように作られているのでしょうか。

「黄色いハート」ができるまで

半谷さんが生産しているかぼちゃは、九重栗(くじゅうくり)の系統である「くじゅうくりEX」という品種。ツヤのある深緑色の皮に濃い黄色の果肉が特徴で、ホクホクとした食感と甘みが楽しめます。
何よりの特徴はその形。下の部分が尖っていて、まるでハートの形をしているところから、JA全農福島が平成14年に「黄色いハート」と商標登録しました。

黄色いハートの種まきは、3月上旬。芽が出たらポットで育苗し、つるが伸びて増えすぎないように主軸の先端は切った後、4月末〜5月上旬に畑に植えます。
受粉して実ができると、その一つひとつにパットを敷きます。これは、太陽が当たりにくい実の下の部分に隙間を作り、太陽光を当てて綺麗な緑色にするため。この作業をしないと緑色にならず、黄色い面がまばらにできてしまったりするそうです。

受粉から40日を経て、黄色いハートは6月中旬〜7月に収穫期を迎えますが、出荷前の大切な作業が乾燥させること。茎を専用のはさみで切り、10〜14日間しっかり乾燥させます。切ったところがコルクのような見た目と肌触りになったら、乾燥された証。

「茎が生っぽいままで乾燥が不十分だと、そこから劣化し痛みの原因になります。また、収穫して一定期間寝かせることで、追熟して味が落ち着き、美味しくなるんです。」

葉タバコからカボチャへ

半谷さんご一家は、平成13年頃まで煙草の材料となる葉タバコを作っていました。当時は、葉タバコの生産や養蚕を営む農家が少なくなかったといいます。

「うちでは、葉タバコを手作業で摘み取り、乾燥させて梱包し、業者に納めていました。青い葉の状態では煙草の香りはなく、乾燥させる過程で香りが出てくるのですが、それを業者が加工して製品化されたものが流通しています。

うちはこのエリアで有数の生産量だったのですが、輸入品の原料などの影響で買取価格が安くなってしまったことや、毎年同じ作物を作ることによって育ちが悪くなる連作障害が起きていたので、切り替えるタイミングだなと思っていました。そんな時に、かぼちゃの生産を頼まれる機会があり、『くりゆたか』という品種から作りはじめたのがきっかけです。」

軌道に乗っていたかぼちゃの生産ですが、東日本大震災後、思ったように実がつかないという壁にぶつかりました。

「震災後のある年、かぼちゃの木ばかり立派に伸びていって、肝心の実が半分もできなかったことがありました。これは、震災後に行われた除染作業などの影響で、受粉をしてくれるハチなどの虫がいなくなってしまったからだと思います。それからは、確実に実ができるように人工授粉をするようになりました。」

人工授粉、収穫、箱詰め作業まですべて手作業でやっているという半谷さん。手間がかかる上に、かぼちゃ一玉だけでも1kg以上あるので、相当な負荷がかかっているといえます。

「かぼちゃの収穫作業は、近所の高校生の子達にも手伝ってもらっています。高校生は体力があるのでとっても助かりますし、彼らもアルバイトとしてお金をもらえるのでお互いに良いですよね(笑)。
ただ、アルバイトの子達に刈り取り鎌で収穫してもらうと、どうしてもいくつかのかぼちゃには傷をつけちゃったりするんです。気をつけてねとは言いつつ、『じゃあ傷ついたのはお土産にあげるからお母さんに何か作ってもらってね。』なんて言って。自分の子どもみたいなものですからね。嫌嫌ではなく気持ちよく働いてくれているので嬉しいです。」

黄色いハートをより美味しく

震災後、メディアなど、様々な場面で取り上げられることが多くなった黄色いハート。6次産業化の展開もあり、福島県立小高商業高校(現・小高産業技術高等学校)の高校生が企画したお菓子『幸せの黄色いはーと』は、黄色いハートを使ったタルトとお饅頭で、震災後に市内の小高区から原町区に移転した人気菓子店「松月堂」が製造。「道の駅相馬」や「ジャスモール南相馬」内でも販売されています。

「手間ひまかけて作った黄色いハートを、いろいろなものに使ってくれることはとても嬉しく、喜んで提供しています。一方で、私自身は産直で他の人の作ったかぼちゃを買ってきて食べたりもします。いろんなかぼちゃを食べてみなきゃね。自己満足していたらだめだから。」と半谷さん。愛情深く、謙虚な姿勢が伝わってきます。

最後に、半谷さんに美味しいかぼちゃの見分け方や保存方法を教えていただきました。

「かぼちゃはカットして売られていることも多いので、断面の果肉が濃い黄色からオレンジ色がかっているものが美味しいです。保存する時は種を取り、煮物用、バーベキュー用などと用途に合わせて切って冷凍しておくと使いやすいですよ。
おすすめの調理法は、今朝も作ったかぼちゃの天ぷら。市販の唐揚げ粉で衣をつけると手軽に作れるし、風味も違和感がなく美味しいので試してみてください。」

半谷さんが手間ひまかけて作る、黄色いハート。甘くてほくほくとしたかぼちゃが食卓にあるだけで、舌も心もほっと満たされること間違いなしです。

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