南相馬市の生産者

辛さも可能性も無限大!
小高唐辛子で町を元気に
小高区
小高工房|廣畑裕子さん

南相馬市小高区にある「小高工房」では、小高区で作られた唐辛子を使ったさまざまな商品を展開しています。町を元気にしたいという想いを胸に、前を向いて美味しいものづくりを続ける、廣畑裕子さんにお話を伺いました。

コミュニティスペースから工房へ

JR小高駅から伸びる駅前通り(県道168号線)沿いは、昔ながらの商店街。その一角にある「小高工房」には、小高産の唐辛子を使った様々な商品が並んでいます。

小高地区で生まれ育った廣畑さんがはじめた小高工房は、2015年に廣畑さんが開いたコミュニティスペース「小高ぷらっとほーむ」からはじまりました。

「東日本大震災後に避難指示が解かれ、地元の人や初めて小高にスーツケースを引っ張りながらやってきた人がふらっと立ち寄れるスペースとして開いていたんです。『いつでも困ったらお茶飲みにおいで』って。
2回目に来る時には、『家を探しているんですが、どこか良いところありませんか?』とか、『こういうゴミはどこに捨てたらいいの?』のような生活面での困り事を相談してくるようになって。初めて来た時はお茶を淹れてあげるけど、2回目からは自分で淹れなさいって言ってるんです(笑)。」

前身の小高ぷらっとほーむは、現在の小高工房近くの飲食店を借りて一年ほど開いていましたが、契約更新のタイミングで飲食店が再開されることになり、新たな場所探しへ。廣畑さんは駅前から一軒一軒訪ねて相談するも、なかなか貸物件を見つけられませんでした。

「現在の小高工房の建物も取り壊しの予定がありましたが、取り壊し代分の家賃を支払うので、3〜5年貸してほしいとお願いしたんです。契約書を持って行ったところ、『悪いけどよ、このまま買い取ってくんないかな』って言われて。え〜〜!!ってなりましたね(笑)。」

5年間の家賃と買取額を同額で交渉された廣畑さんは、買っても借りても同じだと腹を括ります。地震の影響でひどく傷んでいた建物を補修し、小高工房は2017年にようやく立ち上がります。そして同年、「小高とうがらしプロジェクト」がスタートしました。

夢はでっかく、唐辛子を小高名物に

元々、小高地区は唐辛子の産地ではありません。小高の唐辛子の立役者も農家さんや廣畑さんです。そのきっかけは意外なところにありました。

「知り合いの農家さんが、作物が動物にやられてしまうことを嘆いていました。
ハクビシンにやられる前に野菜をもらいにおいでと向かった畑で、唐辛子だけは全く被害がなく、きれいに残っているのを見つけて気付いちゃったんです。唐辛子なら動物に狙われない。これを作ったらいいんじゃない?って。」

廣畑さんと知り合いの農家さんの3人で栽培をはじめた唐辛子は、その年の復興祭で売ったところ大反響。翌年、一緒に唐辛子を栽培してくれる人を募集したところ、64件も集まりました。その中には、「しょうがないからやる」という声も。廣畑さんは、その声をとても嬉しく受け止めます。

「心がやられるのは無関心。仕方ないからって気持ちがある。震災で人との繋がりも切れてしまって、自分でもどうしたらいいかわからない。だから、しょうがない、唐辛子でも育ててみるよ、って声が出てきたのが嬉しいなぁって思いましたね。」

2年目には、初めの年の半分の人が育てるのをやめてしまい一喜一憂もしましたが、年々小高地区への移住者も増え、栽培を手伝ってくれるところも増えてきているそう。また、育ててもらった唐辛子を小高工房で一味にして返送する「マイ一味プロジェクト」では、全国で小高の唐辛子の存在を知ってもらう良い機会となっています。

「唐辛子を育てるのは大変だし、儲かりません。それでも毎年協力してくれる人もいて、その中には御年96歳もいます。『俺、来年も作るんだからちゃんと売ってこい』って言われると、商品開発も頑張らないとなと思います。」

辛さも可能性も無限大!唐辛子商品

小高工房の唐辛子商品は、小高一味からスタートしました。

はじめは唐辛子のきれいな赤色を出すために試作をしていましたが、唐辛子を分解していくうちに、3段階の辛さの一味ができたそう。
主に皮の部分を使った子どもでも食べられる辛さの『小高一味 大辛 赤色』、種の部分を使ったくせになる辛さの『小高一味 大辛 黄色』、そして、辛味成分がついている胎座(たいざ)の部分を粉砕した最も辛い一味は、『余計なことをしてしまった
小高一味 激辛 緑色』という名前がついていて、その激辛ぶりが伝わります。

2022年1月に発売になった新商品の柚子胡椒は、お試しで栽培した黄色の唐辛子を何に使うか考えた時、廣畑さんがお好きだというコンビニのおでんについてくる柚子胡椒の作り方に興味をもったことがきっかけになっています。

さらに、小高地区で栽培された柚子の放射線量による出荷停止が2019年に解除になったことから、小高唐辛子と共に柚子の安全性もPRできると考え、ウェットタイプとドライタイプの2種類を商品化しました。

特にドライタイプの柚子胡椒は、廣畑さんも大のお気に入り。「うどんやそばにはもちろん合うし、オイル系の料理にも合うので、パスタやポテトにかけても美味しいよ。」とのこと。

小高一味もドライタイプの柚子胡椒も、実はすべて廣畑さんの手作り。毎回試作では街の人に試食してもらい、意見や要望を聞いてブラッシュアップしていくそう。

様々な商品がある中、『小高ビーフカレー』は、廣畑さんがお子さんに作っていた具沢山の我が家の味の再現にこだわったもの。カレーによく使われているカシミールチリという品種の唐辛子を育て、「小高チリ」として加えていて、ピリピリビリビリとした大人向けの辛さに仕上げられています。

小高を楽しい雰囲気の場所に

辛いものが好き。何より食べることが大好きだという廣畑さんは、次に作りたい商品も決まっていて、着々と準備を進めているといいます。そこには食への情熱と、ビジネスとしての冷静な視点もありました。

「世の中には、被災地支援のような商品がいっぱいあるので、どこにでもあるようなものを作っても仕方がない。手間がかかって大変で誰もやらないことをやればオンリーワンになるし、そのためにクオリティを上げないといけません。小高工房の商品は、東京のデザイナーさんの力添えもあってパッケージデザインにもこだわっています。美味しいかどうかは食べてもらわないとわからないので、その手前のかわいいとか、ほしいをマーケティング的に考えて作らないといけないと考えています。」

それでも、小高工房の利益のほとんどは、度重なる地震の被害の修復費用に消えているという非情な現実も。そんな中でも繰り返し来てもらえる場所として続けていきたいという小高工房の入り口には、小高に伝わる大蛇伝説の龍と、判子のように「笑」の文字があしらわれたロゴが描かれています。

「だってさ〜。何も無くなって被災地って言われ続けて泣いている場所だったら、人間おかしくなっちゃうよ。小高に行ったら楽しい雰囲気があって、笑えるような場所になっていたらいいよねって思っているんです。」

辛い現実はあれど、小高を確実に明るくしている、廣畑さんの情熱。
ぴりっと辛く、愛情の詰まった唐辛子商品の数々を、ぜひお試しください。

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