南相馬市の生産者

安心なトマトの豊作を目指して
原町区
仲野内勇作さん

南相馬市原町区で、トマトやブロッコリーなどを生産する仲野内勇作さん。
就農して十年、地の利に合わせたトマト生産の歩みを伺いました。

子どもたちの収穫体験

7月のある日、原町区にある仲野内勇作さんのトマト栽培ハウスに、元気な子どもたちが集まりました。原町第二小学校の小学生約30人の収穫体験です。

ここ数年、毎年一校のペースで農業体験を頼まれているという仲野内さん。

「うちの子どもが地元の小学校に通っていたつながりから、体験ができないかと声をかけられたのがきっかけです。今は農家の子は少なく、なかなか実がなっているところや収穫するところを見たことがないと思います。」

丸々と大きなトマトを手にした子どもたちはとっても嬉しそう!
この日はもぎたてのお土産を、お家で美味しくいただいたことでしょう。

7,840本の手入れ

定番の野菜として人気のあるトマト。仲野内さんがつくっている品種は「麗夏(れいか)」と「麗月(れいげつ)」です。

「スーパーでもよく出回っている品種に『桃太郎』があります。桃太郎は果肉が柔らかいのに対し、麗夏や麗月は果肉が硬めで、桃太郎に比べると出回っている数が少ない品種です。

トマトは赤く熟してから収穫するイメージがありますが、実際は、実が青いうちに収穫しています。それは、収穫してからスーパーに並ぶまでに数日かかり、そこで追熟するからです。赤くなってから収穫すると、輸送の段階で柔らかくなりすぎて傷んでしまうんです。噛んだ時にある程度歯ごたえがあったほうがおいしいので、その塩梅を考えて収穫しています。」

トマトは家庭菜園でも人気がありますが、プロである仲野内さんはどのように育てているのでしょうか。

「うちでは4月頭に苗を購入し、ポットに移し替えて5月上旬頃まで育てます。トマトは、毎日の気温を一日ずつ足していって1,000度になると収穫期といわれています。収穫シーズンは6月上旬〜8月。この間はほぼ毎日収穫作業を行なっていて、多い日には1,000kg〜1,200kgの収穫があることもあります。
寒くなるにつれ収穫頻度が下がり、11月頃にその年のトマトは終わり。レタスや水菜などの冬の野菜に切り替えていきます。」

仲野内さんのトマト栽培ハウスの中には、なんと7,840本ものトマトの苗が!
当たり前ですが、家庭菜園とは違うスケールのすべてを、手作業で管理しています。
苗をよく見ると、トマトの黄色い花に赤い印が。

「人工受粉を終えた証として、食紅がつけています。受粉の働きをするハチは、気温が高いと働かなくなるので、より確実に受粉ができるように手作業で受粉作業をしています。夏場は一週間〜10日で次の花がつくので、一週間に一度は受粉作業をしていることになります。夏場で一番手がかかるのは、やはりトマトですね。」

土の代わりはヤシガラ

震災前まで、車のディーラーで整備士として働いていた仲野内さん。2012年10月に、農家のご両親のもとで就農しました。
ご両親が育てていた作物の一つであるトマトを一人前に作れるようにと励み、今、トマトの肥料の管理は仲野内さんが担当しています。

しかし、自然環境の影響が行く手を阻みました。

「元々は土で育てていたトマトですが、土壌には、作物が突然枯れてしまう青枯病(あおがれびょう)の菌があり、その影響をもろに受けるようになってしまいました。
試行錯誤の末、土に植えるのではなく大きなポットにヤシガラを入れ、そこにトマトの苗を植えて育てる方法に落ち着きました。

土には肥料などが含まれていますし、根も深く張るので大きな実ができるのですが、水はけの良し悪しなど管理がなかなか難しい。
一方、ヤシガラには肥料が入っていないので、毎日その日に必要な肥料を水と一緒にあげる手間はありますが、管理がしやすいというメリットがあります。」

肥料と水をあげる自動制御機械は、仲野内さんが自らセッティングしたそう。
仲野内さんからは、「何でもやってみないとわからないので、まずはやってみることです。」と、頼もしいお返事が返ってきました。

野菜の流行、定番をおさえる

野菜には、流行り廃りがある、という仲野内さん。品種改良のことかと思えば、野菜の品目にもいえるようです。

「CMやメディアの影響などもありますが、そのほかにも理由はさまざまです。例えば、リーフレタス。うちではグリーンのリーフレタスを作っていますが、最近では赤いサニーレタスの人気が高まっています。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、テイクアウト商品や家でのごはん用に彩り野菜のニーズが高まっているので、グリーンとサニーをセットで売りたいといった要望もあり、今年はサニーも作ってみようかなと考えています。同じリーフレタスでもグリーンとサニーで種類が変わるので、育ち方も特性も変わります。」

車の整備師から転身、就農して十年。畑違いの仕事を通して仲野内さんが感じてきたことは、どんなことなのでしょうか。

「会社員と違うので、自分がやった分だけ作業は進みます。かといって農業はやった分だけ上手にできるものでもない。トマトは品質の良い順に、A品、B品、C品と分けるのですが、C品ばっかりだとやっぱり落ち込みます。でも、良いものがたくさん採れると嬉しいですし、その年の評価につながるので嬉しいですね。

トマトのような定番野菜は、手間もかかり技術も必要ですが、流行関係なく安定的に食べていただける野菜だと思います。」

ほどよい歯ごたえに確かな甘みが楽しめる、仲野内さんのトマト。
品質、安全性共に安心感のある野菜は、日々の手仕事の賜物(たまもの)です。

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