南相馬市の生産者

懐かしい家庭の味を切り餅で
原町区
ごろくファーム|荒利敬さん・淳子さん

南相馬市原町区にある「ごろくファーム」では、JGAP認証を取得したお米を栽培し、そのお米で切り餅を作っています。
安全で安心なお米作りを目指す荒利敬さんと、昔ながらの家庭の味を再現するために、日々アイディアと工夫を凝らして切り餅を作る淳子さんにお話を伺いました。

「我が家の餅」の風習

ごろくファームは、代表・荒利敬さんの息子さんで9代目となる代々続く米農家。長年お米は作っていましたが、切り餅を作りはじめたのは利敬さんの奥様・淳子さんでした。

「昔から原町辺りには、各家庭で餅をつき、お歳暮やお正月に親戚やご近所に送る風習があります。うちではもち米を作っていたので、それを近所のお菓子屋さんに持って行って餅にしてもらっていました。東日本大震災の津波で、ご近所の家では色々なものが流されてしまい、改めて餅つきの機械を購入して餅を作るには高齢化もあり大変だということで、うちが餅作りを頼まれるようになりました。」

利敬さんのお母様が餅作りをしていた様子を思い出しながら餅作りをはじめた淳子さん。その様子がJA直売所の目に留まり、直売所で販売する餅作りも頼まれるようになります。直売所の方々からも教わりながら、ごろくファームの本格的な餅作りがはじまりました。

荒家で作っていた餅は、白餅、あおばた豆を練り込んだ豆餅、草餅、干し柿を練りこんだ柿餅の4種類。ごろくファームでもこの4種からはじめましたが、淳子さんの元に届く〝我が家の味〟はさまざま。

「『赤しそを入れたしそ餅を作って欲しい』、『あおばた豆ではなく落花生を入れたのが我が家の豆餅なんだ』など、それぞれの〝我が家の味〟のリクエストに応じて作っているうちに、だんだんと種類が増えていきました。」

切り餅は一つひとつ手作り

ごろくファームが切り餅に使っているもち米は、自家栽培の「こがねもち」という品種。もち米の中でも特に粘りがあり、歯ごたえがあって美味しい餅ができます。
また、淳子さんの作る切り餅にはぽつぽつとしたお米の粒が残っていて、それが良いアクセントになっています。

「昔はもち米が高価だったので、餅をうるち米で作っていたんです。普通のもち米で作るより時間も手間もかかるんですが、うるち米を入れると歯ごたえが出て、懐かしい食感になるんです。」

切り餅作りはまず、精米した米をといで一晩水に浸けて柔らかくするところからはじまります。餅つき機でついたお餅は番重という浅い箱に伸ばし、ある程度の硬さになるまで置きます。固まったら、8cm幅に手切りした後、切断機で切ります。このサイズは、お客さんからの要望を取り入れた食べやすい大きさ。淳子さんはこの工程を4〜5日かけてお一人で行っています。

安全・安心にこだわる米づくり

東日本大震災では、ごろくファームの一帯は津波を免れたものの、震災後5年間は米の栽培もストップ。ようやく平成28年から作付けを再開しましたが、それでも未だ震災前の収量には戻っていません。

「基盤整備して土壌が変わっているので、震災前は一反あたり8俵穫れていたのが今は約5〜6俵しか穫れていません。塩害の影響もあり、実らない米もあります。特に、もち米は病気にかかりやすく倒れやすいので収量をあげるのが難しいんです。」と利敬さん。

そんな中でも震災後は、こがねもち、こしひかり、ひとめぼれ、ミルキークイーンのほか、福島県推奨の「天のつぶ」、「つきあかり」を栽培しています。
2022年からはじめたのが福島県のブランド米 「福、笑い」。このお米は、JGAPを取得している農家だけが作ることができます。

農場やJA等の生産者団体が活用する安全・安心の証、JGAP。具体的にはどんな規定があるのでしょうか。

「肥料・農薬の管理はもちろん、生産工程でどんな機械を使っているかなど、お米を作って出荷するまでをすべて記録しています。年に一度の農協団体の内部監査と、数年に一度の外部機関による監査があり、厳しくチェックを受けています。
当たり前のことかもしれませんが、製造から出荷までの工程をすべて明らかにし、記録しておくというのはなかなか大変で、JGAPを取得している農家さんもまだ多くはありません。それでも、お客さんに安心して食べていただけるように頑張っています。」

淳子さんのアイディア餅

ごろくファームで販売している切り餅は約20種類ですが、淳子さんのアイディアは止まることを知りません。

「アイディアはどんどん思いつくんです。さつまいもとバターを一緒に練りこんだスイートポテト風の『さつまいも餅』は冬季限定。春限定の『桜餅』は、桜湯をごちそうになった時に桜の塩漬けを練りこんで餅にできるなと思いつきました。『のりピーナッツ餅』は、ピーナッツ餅を作っている時、間違えて餅つき機にのりもばっさり入れてしまったところからできました。のりとピーナッツって意外と合うんですよね。」

そんな淳子さんが挑戦中なのが、凍(し)み餅。餅を水に浸して柔らかくしたものを藁で編んで家の軒先に吊るし、凍ったり乾いたりが繰り返されてできる保存食です。

「ばあちゃんが作っていたようにやってみるんですが、温暖化の影響なのか、なかなか凍みず、昔ながらの食感に至らなくて試行錯誤しているところです。」

淳子さんの作る懐かしの凍み餅が、店頭に並ぶ日が待ち遠しいです。

体にやさしい味を全国へ

ごろくファームのホームページからは、北は北海道、南は九州まで注文があるそう。

「浪江から県外に引っ越した方が買ってくださり、『豆餅自体は他にもあるけれど、ごろくファームのはやっぱり違う。懐かしい味がしたよ』と感想を言ってくれたりして嬉しいですね。」と淳子さんは笑います。

そんな淳子さん手作りの切り餅には、こんなこだわりもあります。

「添加物を入れると日持ちがするようになるんですが、私は、なるべく入れないように心がけています。最近では若いお母さんも食品成分などを気にされているので、体にやさしいものを作っていきたいですね。」

JGAP取得の安全なもち米に旬の素材を組み合わせて作られている切り餅は、食べ終わる頃には新しい味を試す楽しみも。原町区の懐かしい家庭の味を再現する、淳子さんの餅をぜひお試しください。

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