南相馬市の生産者

南相馬に咲かせる希望
原町区
花卉(かき)栽培農家|二谷純市さん

南相馬市原町区で、トルコギキョウやストックなどの花を栽培している二谷(ふたつや)純市さん。東日本大震災後からはじめた花卉栽培のあゆみを伺いました。

冠婚葬祭に大活躍の花たち

二谷純市さんは、南相馬ICからほど近い場所で花の栽培をしています。農場にお伺いしたのは12月中旬。案内していただいたビニールハウスの中には、大人の腰の高さくらいまで伸びた白やピンク色の花が。

「冬の時期に育てているストックです。手前の花をよく見てみてください。花びらが複数重なっている八重咲き、奥に咲いているものは花びらが1枚なので一重咲きです。」と二谷さん。近づいてみると、確かに花びらにそれぞれ特徴があります。どちらも真っ直ぐに伸びた茎にたくさんの花が咲いていて、周りをぱっと明るくするような印象です。

切り花や花壇用など観賞用として人気の高いストック。数多くの品種が作られている中、二谷さんが主に栽培しているのは、白・ピンク・ブルーの3色。これは、主な出荷先の関東圏の市場からのオーダーです。

同じく、白・ピンク・ブルー3色のオーダーを受けて栽培しているトルコギキョウは、観賞用はもちろん、結婚式やお葬式などの冠婚葬祭にも大活躍。

「トルコギキョウは、フリルが重なったような花びらが華やかでとても喜ばれます。フリルのところに少しピンクやブルーの色が入った『海ほのか』という品種も人気です。花びらが多い大輪系は東京市場で売れますが、南相馬の産直では、中輪系の受けが一番良いですね。」

たくさんの花を育てているので花の栽培が専門かと思いきや、実は、メインは水稲。2022年現在、二谷さんは約35ヘクタールもの水田を管理しています。
ビニールハウスは5月の田植えまで稲の育苗用に使われ、育苗が終わったところで花の栽培がはじまります。6〜7月にトルコギキョウを植えて10月頃に出荷。9月頃にストックの種をまき、10月に定植、年を越して翌年4月に出荷というのが一年間のスケジュール。一年を通して休む暇もなく作業が行われています。

水稲栽培農家の二谷さんは、なぜ、花の栽培をするに至ったのでしょうか。

飯館村の苗のバトンを引き継ぐ

震災直後、福島県伊達市内の旧保原町(ほばらまち)に避難しながら原町区の家に通っていたという二谷さん。なかなか再開できない水田は、草が伸びて荒れ放題。その間に、高齢になった周りの農家もどんどんと農業を辞めていく状況だったといいます。

平成27年頃からようやく水稲を再開しはじめた頃、飯館村でトルコギキョウを栽培していた農家の方々が避難したため、育てていた苗が使われずに残っているとの情報が入ってきました。「苗を差し上げるから育ててみませんか?」 と南相馬市から二谷さんにオファーが入ったのはこの時期でした。

「これまで花を作ったことなんて全くなかったですし、トルコギキョウ?一体どんな花なの?という感じでした。部会を結成し、メンバーとして集まったのは16名。メンバーは皆花の栽培は初めてだったので、長野や青森、長崎に出向いて花の栽培を学び、それぞれが苗をもらって作りはじめました。」

関東圏の市場からのオーダーに加え、それぞれが好きな品種を育てながら、トルコギキョウを南相馬の花として宣伝していこう、そうしてはじめた1〜2年はとても良い出来でしたが、3年目から壁にぶつかりました。

「最初は無我夢中でやってきましたが、上手く咲くと欲が出てきてしまうものなんですね。トルコギキョウを同じ場所で作りつづけたことによって、連作障害が出てしまいました。出荷前に花が咲きすぎてしまったり、病気にかかってしまったりと、失敗が相次ぎました。そこで、連作障害の対策として、合間にストックを育ててみようということになったんです。」

部会長としてメンバーをサポートしてきた二谷さんは、メンバーのもとを一軒一軒まわり、問題がある場合は種苗会社の指導官に教えてもらう機会を作ってきました。

令和4年現在、部会長の座を降りた今でも、25名の部会メンバーとの情報交換は続けています。

「2年前に28歳の女性が就農し、育苗ハウスでストックを育てています。上手く咲いた報告を受けると嬉しいものですね。」

花と観光で南相馬を盛り上げる

花き栽培に若い世代が参入する流れがある中、観光分野にも嬉しい兆しが。
観光庁や株式会社JTBなどが2011年から取り組んでいる「大学生観光まちづくりコンテスト2022」で、東京国際大学の学生たちが考案した企画「花とワインで見つけるあなたのスローライフ旅」が、福の山賞を受賞。二谷さんは、この企画にも協力しています。

「このあたりの観光資源には、国の重要無形民俗文化財に指定されている、相馬野馬追(そうまのまおい)がありますが、観覧したらすぐに帰ってしまい、なかなか留まってもらえないのが悩みです。そこで、野馬追の後に、富岡のワインと私たちの作ったトルコギキョウを楽しんでもらえたらと考えています。南相馬市には新しいホテルもできているので、ゆっくりしていってもらいながら、私たちも観光で潤うことができたら嬉しいですね。」

花の栽培を見学できるツアーや、花バイキングと称してお得に花を購入できるセットを作ったりと、花を楽しむさまざまなアイディアを現在検討中とのこと。実現化が楽しみです。

震災後、飯館村で花き栽培を断念することになった農家の方々から苗のバトンを受け取り、ゼロからはじめた花き栽培。
二谷さんは今、トルコギキョウ、ストックのほかに、葉牡丹、可憐で小さな花が咲くスターチス、ナデシコ科のダイアンサス、ユリなど、バリエーションに富んだ花々にチャレンジしています。

関東圏の市場のオーダーに応えながらも、地元・南相馬の人々が楽しんでくれる産直に卸す花を作るのも楽しみ、という二谷さん。ビニールハウスには、産直用の紫色のストックも咲いていました。

「妻も私もお気に入りの色です。」そう笑う二谷さんのおおらかな愛情が、生き生きと咲く花々に注がれているのを感じました。

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