南相馬市の生産者

手間とプライドをかけたシクラメン
鹿島区
根本園芸|根本雄二さん

南相馬市鹿島区にある「根本園芸」では、日本で古くから親しまれている鉢花のシクラメンを栽培しています。
毎年開催される全国花き品評会のシクラメン部門で、2001年から5年連続を含む、合計9回 農林水産大臣賞を受賞されている、根本雄二さんにお話を伺いました。

福島有数の栽培量のシクラメン農家

鹿島区にある根本園芸の敷地内には、背の高いビニールハウスが複数棟立ち並んでいます。
広々としたハウス内では、シクラメンをはじめ、季節折々の花を栽培しています。訪れた3月は、5月頃からの出荷に向けたアジサイの栽培などがはじまっていました。

さまざまな花の中でも、根本園芸のシクラメンの年間出荷数は約1万5,000鉢。福島だけでも数十の農家がシクラメンを栽培する中、有数の栽培量を誇ります。
そして、栽培しているシクラメンはなんと70種類!色や葉の形、大きさもさまざまで、年によって売れ筋の色は変わるようですが、毎年人気なのは定番の赤とピンク。花がフリルのものや縦縞の模様が入っているもの、最近ではブルー系などの珍しい品種も人気があるようです。

シクラメン栽培への挑戦

根本園芸は、昭和51年頃から初代・根本修二さんが様々な種類の花を栽培してきました。本格的にシクラメンの栽培をはじめたのは、修二さんの跡を継いだ息子の雄二さんからです。高校生の時にお父様の跡を継ぐと決意した雄二さんは、栃木県日光市の花き栽培農家で修行されました。シクラメンの土づくり、消毒、植え替え、水かけまで、朝から夕方まで休みなく学んだそう。

一年間の修行を経て実家に戻ってきた雄二さんが、シクラメン栽培を一からはじめたのにはこんな理由が。

「シクラメンは鉢花の基本。シクラメンを上手に作れたら、他の鉢物の大半を作ることができるほど難しいんです。修行で学んだこともあったので、挑戦してみようと決めました。」

手間を惜しまず育てる

シクラメンは、11月中旬に種をまき、花が咲いて出荷するまでちょうど一年かかります。苗のうちは菌に弱いので、じっくり時間をかけて土を低温消毒しています。

「シクラメンは冬の花なので寒さには強いのですが、暑さに弱く夏場をどう乗り切るかが肝心です。ハウスの中で栽培して直射日光を遮り、できるだけ日よけをして、ハウスの気温を下げてあげます。
また、シクラメンは葉数が重要で、葉の数が多いほど花を咲かせます。そのためにも土台がしっかりしていないとだめなのですが、いかに葉っぱを増やすかは技術です。」

最もハードなのは、出荷ピークの二週間。

「シクラメン1万5,000鉢の中から、3〜4品種を一箱にして出荷するのですが、パートさんが帰ったあとは妻と二人で、夜中の2時頃まで作業することもあります。敷地内を一日3万5,000歩くらい歩き回るので、二週間で6キロくらい痩せるんですよ(笑)。」

シクラメンの最高峰になるまで

シクラメン栽培をはじめて二年目から、全国花き品評会のシクラメン部門に出品をはじめた雄二さん。全国から出品される約500点のシクラメンがしのぎを削る大会で、出品4年目に品評会のトップである農林水産大臣賞を受賞します。

「審査は誰が作ったかわからないようにした上で、同じ品種で同じサイズの鉢を10鉢揃え、それらの均一性、花の上がり、株の仕上がりをチェックされます。それぞれ育ち方は違うので、揃えるのは大変ですね。」

受賞の手応えなんて無いですよと謙遜する雄二さんですが、5年連続トップを受賞され、鉢花の中央卸市場である東京砧花き園芸市場で最も高値がつく実力。今、雄二さんの作るシクラメンの8割は、銀座・六本木の花屋に数千円で並んでいます。

シクラメン栽培には夢がある、と思いきや、雄二さんは首を横に振ります。

「シクラメンは農業の中で最も設備投資が高額で、実際は博打のような商売。良いものを作り、品評会で認めてもらうなどの努力なくして実りません。だから、数百円のシクラメンを作るわけにはいかないんです(笑)。」

逆境を力に変えて

東日本大震災前、根本園芸は東京電力第二原子力発電所から12kmのところにありました。その土地は震災で警戒区域になり、そこでの栽培は断念しなければなりませんでした。現在の土地は4年かけてやっと見つけ、迷いながらも周囲の期待を受けながら再建されました。そんな中、またもやコロナ禍という逆境が。

「切り花に関してはイベント中止などの影響でかなり厳しい状況です。一方、鉢物に関しては、おうち時間が増えたことで庭いじりをしたい方が増え、需要が伸びています。ただ、その反動で、緊急事態宣言やまん延防止が解除になると、売れ行きがかなりストップしてしまいますし、仕事や子育てで忙しい若い世代の方に楽しんでいただくにはどうしたらよいかなど、課題は多々あります。」

シクラメンを育て、子を育てる

「私自身、花を育ててはいますが、忙しいと花を愛でる余裕ってなかなか持てないですよね。」と仰る雄二さんも、三人のお子さんのお父さん。シクラメン栽培をしながら、日々テニスの練習に励むお子さん達の送り迎えをされる一面も。

「自分が子どもの頃は、父親の手伝いをしていてもすぐに飽きてしまっていたのですが、うちの子どもたちは栽培の手伝いを嫌がらず、数時間位は平気で集中してやってくれているのですごいなって思います。日々のテニスの練習で鍛えられているのかもしれませんね(笑)。」

根本園芸のシクラメンが、ご家族みんなの手で愛情をかけて育てられているのが伺えます。

改めて雄二さんの思うシクラメンの魅力はどんなところなのでしょうか。

「シクラメンの魅力は長持ちするところだと思います。ちゃんと水やりをすれば数ヶ月持つこともあり、購入してくれたお客さんが『今年は何月まで楽しめたよ』と教えてくれたりします。長持ちするからこそ、忙しい若い世代も育てやすいと思いますし、今は気持ちに余裕がない方も、仕事や子育てが一段落したら育ててみようかなと思っていただけたら嬉しいです。」

ご自宅に飾るのはもちろん、贈り物としても人気のあるシクラメン。2022年秋には、雄二さんがシクラメン栽培をはじめて23作目を出荷予定です。根本園芸の手間とプライドをかけて作るシクラメンの美しさを、ぜひ見て育てて感じてみてはいかがでしょうか。

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